今回は、トヨタのカイゼンについて語ります。
僕はトヨタ系のIT企業で20年以上勤めていました。
トヨタに在職しているときに強く感じたのは、個人、個々の組織、会社全体、トヨタグループ全体、それぞれのレベルで継続して改善を続けていることです。
会社の中に”カイゼン”の考え方を取り入れており、働く個々にその考え方が定着するような仕組みもできています。
その仕組みがトヨタを世界一にしたのだと思っています。
ちなみに、改善という漢字ではなく、カイゼンとカタカナをつかったのは意味があって、改善はある対象に対して課題を解決して良くしていくことですが、カイゼンというのは継続的な改善・成長を意味するトヨタ用語だからです。'KAIZEN'という英語にもなっていて、外国人にも知っていれば普通に通じます。
トヨタのカイゼン(個人から組織、そして会社)
カイゼンの考え方は、企業哲学としてトヨタは会社の中に根づいています。単に個人が成長すればよいということではなくて、会社全体で継続して成長していくような仕組みになっています。
グループ会社が横並びで全く同じ仕組みになっているわけではありませんが、カイゼンのベースになる問題解決の手順やA3の書き方などは、トヨタの社員は関連どこにいても学んでいるようです。
改善は、個々の人の成長だけでは完結しないものです。個人、組織、会社単位で成長することを考える必要があります。
個人のカイゼン1(教育)
個人単位に対しては、個別にカイゼンのスキルを習得するための問題解決の研修があります。これも新入社員の最初の1度だけではなく、本人の成長、職位があがるのにあわせ、その役割にあった研修カリキュラムが組まれています。研修後には、それを実践して成果発表をする場もあります。
机上の研修だけでは右から左で終わってしまうことを、その後にその研修の内容を実際の仕事のなかで適用、実践する場があることで、より研修内容を理解・定着することができます。
もちろん、その時には基本は職場先輩、上司などがきちんと指導、人材育成にかかわるので自然と育成する姿勢もはぐくまれます。
ある程度の規模の企業になれば、当然と言えば当然なのかもしれません。ただ、会社によっては新人教育だけで、その後の育成はどちらかというと業務ノウハウに偏りがちかもしれません。何年かおきに繰返し実施することにより、しっかりと考え方がみについていく仕組みになっています。
個人のカイゼン2(提案)
個人別については更に、個人の業務に対して個人個人で創意工夫して業務を効率化したら表彰されるという仕組みがありました。
仕事は問題解決の流れでするものだし業務改善を実施するのはあたりまえになっているトヨタでは、個人の作業も改善していくのがあたりまえになっていました。
なので、改善点がみつかったら、それを提出して表彰される、というものではなく、カイゼンの哲学を定着させるためにも、管理職になる前は毎年一定数の提出ノルマもありました。
提案自体は、難しく考える必要はなく。
例えば、よく利用する電話番号を一覧にして利用者と共有するとかで十分だし、EXCELのピボットテーブルやVBAマクロなどで定期的に提出する資料作成を効率化するなどは、改善として頻繁に提出されてました。
組織のカイゼン(小チームでの改善活動)
1人では改善するにしても、ある程度の限界もあります。
業務のなかで、ある程度大きな改善、人手が必要な改善については、関係者の数名チームをつくって、通常業務とは別に改善活動を実施していました。
例えば通常業務ではシステムの維持運用をやっているとします。
その維持・運用業務はそのまま継続しながら、何人かでチームをつくって改善活動をするわけです。
維持・運用の業務の中で問題を分析したら、問合せの中で類似の問合せの時間がかかっているのがわかったから、問合せ管理データベースをつくるとか。特定の問合せばかりが多いのがわかったら、毎月トップ3の問合せに対してFAQとして問合せ先に公開するとか、改善をつづけるわけです。
この活動については、改善を定着させるために各チームが実施した結果を発表する場がありました。
優秀な改善活動については、各部署内で選考 → 各事業所内で先行 → 会社全体で最終選考 ということで、最終3チームが表彰されていました。
何度か表彰されたことがありますが、その時には改善活動のテーマ決めからはじまり、はてはチームの名前の付け方、本質とは関係ないもののそのときの評価者の評価傾向まで調べて対応したものです。
もちろん、本質は組織が改善してよくなっていくこと、こうした改善の精神が組織の中に浸透していことです。
会社のカイゼン(組織をこえたグループ活動)
会社の改善も考え方は小チームでの組織内の改善と大きくは違いはありません。
組織内の小さなチームだったものが、組織をこえたチーム・グループの改善活動になるだけです。
トヨタではWG(ワーキンググループ)活動とよばれていて、組織横断の改善活動を行うときには、組織をまたいでチームをつくって改善活動を実施していました。
例えば、”働き方改革”をやろうとなったら、働き方改革のWGができて、組織横断で活動するわけです。
各部署の代表者が集まり、改善の案を検討します。
必要に応じてそれぞれの所属する部署内で案をつのり集まったものを持ち寄ったり、WG内の意見を持ち帰って各部署で更に検討したり。こうして、組織を超えた改善活動が実施されています。
トヨタグループの改善(グループ企業 横ぐし)
会社を超えたトヨタ全体の活動も同じです。
グループ全体での改善WGということになります。
もっとも、実際の改善活動は現場の実業務のなかで行われるのものですので、グループ全体にわたるのはそれほどはないかもしれません。ただし、トヨタのグループ会社も時代の変化にあわせて統廃合なども実施しております(自分も数回経験しました)。
それは、こうした改善の一環で行われているものだと思います。
そして未来へ(豊田家の家訓)
トヨタの企業活動は今でも創始者、豊田佐吉氏の影響を受けています。
それがまとめてあるのが基本理念である「豊田網領」というものです。
「上下一致、至誠業務に服し、産業報告の実を挙ぐべし」からはじまる、一連の基本理念になります。
あわせて豊田家には「一代一業」という家訓があります。
起業家精神を忘れぬよう、1人の経営者は1つの事業を起こせという意味で、佐吉氏以降の豊田3代は、この教えを忠実に守ってきています。
・佐吉氏から自動織機事業を受け継いだ息子の喜一郎氏が自動車事業を起こしトヨタ自動車を創業。
・孫にあたる豊田章一郎名誉会長は、トヨタホームとして、住宅事業への参入での中心的な役割を果たす。
・曾孫になる豊田章夫社長は、インターネットを使った車の総合情報サービス「GAZOO」などIT事業を立ち上げ。
さらに豊田章夫社長は、東富士に実証都市「Woven City」を構築していくことを発表しています。
2021年初頭より着工し、企業や研究者に幅広く参画を呼びかけ、CASE、AI、パーソナルモビリティ、ロボット等の実証を実施するようです。
カイゼンとともに、こうした新たなる取り組みが、トヨタという企業を世界的にした理由だと、長年トヨタにお世話になった身として強く感じております。
カイゼンや問題活動について
これまでの自分の経験をもとに、各種問題に対するコンサル、ご支援、問題解決を会社に定着させるお手伝いなどを実施しております。
もしお困りの時、興味がわいた時には一度ご相談ください。下記にリンクも貼っておきます。